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遺言書が見つかれば、遺言書の内容にしたがうことが、原則ですが、遺言書が存在しない場合には、相続人の間で、遺産分割協議を行います。
遺産分割協議を行うには、その前提として、相続人及び相続財産の調査を行う必要があります。これらに漏れがあった場合、遺産分割協議自体が無効になったりすることがありますから注意が必要です。
相続開始後、相続財産のすべてが、相続人全員の共有状態となります。
したがって、例えば、被相続人である夫が死亡した場合、不動産について妻、長男、長女の共有、預貯金についても妻、長男、長女の共有、株式についても妻、長男、長女の共有状態になっているわけです。
共有状態になっているということは、これらのものを処分するのに、いちいち全員の同意が必要となってしまいます。 これでは、各相続人が、せっかく取得した相続財産を自由に処分することができないので困ります。
そこで、個々の相続財産を誰々のものにして、自由に処分できる状態にするのです。これが、遺産分割協議であり、共有状態から解放されるため、大きな意味を持つことになります。
例えば、『不動産については、妻が、預貯金については、長男が、株式については、長女が、それそれ取得する。』というような内容で決定することができます。
遺産分割協議を行うにあたっては、以下の点を考慮して決めるのがよいでしょう。
① 被相続人の最終意思
遺言書がない場合、被相続人の最終意思を推測することは難しい面もありますが、被相続人の普段の言動などがある程度分かれば、その内容は尊重されるべきでしょう。また、遺言書の要件を満たさないが、被相続人が記載した書面や日記などが存在すれば、その内容についても尊重されるべきでしょう。
② 各相続人の法定相続分
民法上、相続人には法定相続分というものが決まっていますので、これを基礎として各相続人の取得分を考慮することができます。
③ 各相続人の年齢、職業、心身の状態、生活の状況
各相続人の遺産分割協議の際の状況、例えば、被相続人の妻は、経済的に困窮しているが、その長男は、裕福な生活を送っているというような状況であれば、各相続人の法定相続分のみを考慮して、遺産分割協議をするのは、妥当であるとはいえないでしょう。
遺産分割協議の方法は、以下の3通りの方法があります。
① 現物分割
現物分割とは、被相続人の財産に不動産、株式、預金があった場合、妻には不動産、長男には、株式、長女には預金をというふうに現物で分配する方法です。
この方法は、被相続人の財産がいくつか存在し、相続人間でうまく分けることができれば、よいのですが、そうでない場合には、他の方法で分割せざるを得ません。
② 換価分割
換価分割とは、①の現物分割ができなかったり、被相続人の財産が不動産のみであり、相続人の共有にすることで、誰が管理するかといった争いが生じてしまい、不動産の効用が落ちてしまうような場合に、不動産を売却し、お金に換えて、それを相続人で分配する方法です。
この方法は、被相続人が遺した財産が相続人にとって必要のないものであれば、売却してしまってもよいのですが、そうでない場合には、この方法は採りにくいことになります。
③ 代償分割
代償分割とは、②で記載したように被相続人の財産が不動産のみで、どうしても妻がその不動産に住み続けたいといった事情があるときには、妻名義に相続登記をして、単独で所有した方がよいものと思われます。この場合、他の相続人が自分の相続分を放棄し、妻の所有にすることで遺産分割協議がまとまれば、問題はありませんが、他の相続人が自己の相続分を主張した時には、遺産分割協議がまとまりません。遺産分割協議をうまくまとめるには、妻が自分の相続分を超えて取得することになった価額に相当する金銭を他の相続人に分配することで、遺産分割協議をまとめる方法です。
ただし、この方法のディメリットは、遺産分割の時に、妻が他の相続人に金銭を一括して支払うことができないような事情がある場合には、他の相続人から文句がつけられて、遺産分割がまとまらないことがあります。
特別受益者とは、相続人が複数いるとき、被相続人がある特定の相続人に対して、遺贈(*1)した場合、あるいは、婚姻、養子縁組のためや、生計を立てるために、贈与をした場合には、その遺贈や贈与を受けた相続人は、他の何ももらっていない相続人より、多くの財産を取得することになってしまい、相続人間で不公平な結果になってしまいます。
このような場合には、相続人間の不公平を是正するため、多くの財産を取得した相続人は、自分が取得できる相続分から、多くもらった分を差し引いた分しか、相続財産を取得することができません。 また、自分が取得できる相続分より多くの財産をもらっている場合には、原則として、取得できる相続財産はないことになります。
*1 遺贈とは、被相続人が遺言で、相続人に財産を与えることです。
たとえば、例をあげると、次のような場合があります。
右図のような場合、被相続人Aは生きているときに、その相続人D(子)に対し、現金3000万円
を、Dが生計を立てるために、贈与していたとします。
その後、被相続人Aが死亡し、存在した相続財産が、現金5000万円ありました。
この場合、相続財産は、被相続人Aの死亡時の現金5000万円+生前にDに贈与していた現金3000万円=8000万円ということになります。
Dの法定相続分は、8000万円の4分の1となる2000万円ですから、Dがすでにもらった3000万円を超えているわけです。
Dは、自分の相続分を超える相続財産を取得しているので、原則として、もうこれ以上財産を取得することはできませんが、贈与分3000万円−法定相続分2000万円=1000万円をほかの相続人に返還する必要もありません。これは、被相続人Aが生前に自己の意思によって、Dに贈与したものなので、その意思は尊重されるべきだからです。
したがって、被相続人Aが死亡時に残っている現金5000万円を、BとCで、分けることになります。
これを法定相続分で分けるとすると、BとCの相続分割合は、2:1となりますので、B、Cの取得分は、以下のような計算で算出できます。
B:5000万円×2/3=3000万円
C:5000万円×1/3=2000万円
以上により、相続財産を法定相続分で分配する場合には、Bが3000万円、Cが2000万円、Dは特別受益者となり、まったくもらうことができない、ことになります。
寄与分とは、相続人が複数いる場合、その中のある相続人が、被相続人が行っていた事業に関して労務をしたり、また経済的な協力をしたり、被相続人の療養看護をすることによって、被相続人の財産の維持や増加に貢献したような場合に、その相続人には、他の何もしなかった相続人より、多くの相続分を取得させようとする制度です。
被相続人の財産形成に貢献した相続人には、多くの相続財産を取得できるようにするのは、当然といえば、当然のことだとも考えられます。
以下、例を挙げると、次のようになります。
被相続人Aが、生前事業を行っており、D(子)はその事業を手伝い、Aの財産の維持・増加に貢献してきたとします。その後、Aが死亡し、死亡時の財産総額が、現金5000万円とし、Dの寄与分が1000万円で決まったとします。
この場合、まず、Aの死亡時の財産5000万円からDの寄与分1000万円を控除します。
5000万円−1000万円=4000万円となり、この4000万円を各相続人に分配します。
法定相続分で分配すると、
B:4000万円×1/2=2000万円
C:4000万円×1/4=1000万円
D:4000万円×1/4=1000万円
となります。
しかし、Dには寄与分があり、上記の法定相続分に寄与分の1000万円を加算しますので、法定相続分1000万円+寄与分1000万円=2000万円となります。
以上から、各相続人の相続財産取得分は、Bが2000万円、Cが1000万円、Dが2000万円となります。
☆寄与分をいくらにするかを決めるのは、原則として、相続人全員の協議で決めます。しかし、この協議が調わない場合や協議自体をすることができない場合には、家庭裁判所に申立てをして、決めることになります。
遺産分割協議は、いつまでにしなければならないといった法的な決まりはありません。
しかし、遺産分割協議をしないまま、長期間が経過しますと、さらに相続が開始したり、全然音通のない人が相続人になったり、することが考えられます。
そのような状況になってしまうと、遺産分割協議がスムースにできなくなってしまいますので、相続が開始した場合には、なるべく早期に遺産分割協議の機会を設けることをお勧めします。
遺産分割協議が成立した場合には、遺産分割協議書を作成します。この書面は、必ずつくらなければならない書面ではありませんが、後々のトラブルを防ぐために作成しておいた方がよいでしょう。
遺産分割協議書は、相続人全員が実印で押印し、印鑑証明書を添付しておきます。遺産分割協議自体、相続人全員でしなければ、無効になってしまいますので、遺産分割協議書も何も相続しない相続人も含めて、相続人全員が実印で押印する必要があります。
相続人間が遠方にお住まいの場合、郵送等で遺産分割協議書を送付して作成しても構いません。
相続人分の遺産分割協議書を作成し、各自がそれぞれ保管するようにすると、安心できます。
遺産分割協議書の雛形は次のようなものになります。
遺産分割協議がまとまらなかった場合には、次の方法があります。
① 遺産分割の調停
1.申立先
遺産分割の調停の申立ては、相手方(争っている相手)の1人の住所地、または、当事者(相続人間)が合意で定める家庭裁判所に対して、行います。
2.必要書類
申立時に必要な書類は、以下のとおりです。
□ 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
□ 相続人全員の戸籍謄本
□ 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合,その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
□ 相続人全員の住民票又は戸籍の附票
□ 遺産に関する証明書(不動産登記事項証明書及び固定資産評価証明書,預貯金通帳の写し又は残高証明書,有価証券写し等)
場合によっては、上記以外の書類を要求されることがあります。
3.申立費用
収入印紙1,200円と予納郵券が必要となります。
予納郵券に関しては、各家庭裁判所によって取扱いが、異なるため、事前に裁判所に確認しておきましょう。
② 遺産分割の審判
1.申立先
遺産分割の審判の申立ては、被相続人の住所地、または、相続開始地の家庭裁判所に対して、行います。
2.必要書類
申立時に必要な書類は、調停の場合と同じです。
ただし、場合によっては、それ以外の書類を要求されることがあります。
3.申立費用
収入印紙1,200円と予納郵券が必要となります。
予納郵券に関しては、各家庭裁判所によって取扱いが、異なるため、事前に裁判所に確認しておきましょう。
遺産分割の調停と審判の違い
調停は、家庭裁判所を通じて、相続人間のお話し合いによる解決となりますが、審判では、訴訟と同様、慎重な審理がされることになり、職権探知主義という方式が採られておりますので、裁判官が職権で、相続人の範囲、遺産の範囲・評価を、決定することができます。
また、離婚事件などの場合とは異なり、遺産分割事件の場合には、調停前置主義が採用されていないので、最初に遺産分割調停の申立てをしてからでなければ、審判の申立てができないわけではありません。いきなり、審判の申立てをすることができます。しかし、家庭裁判所の実務では、まず、調停の申立てをするよう、指導することが多いようです。
まずは調停の申立てをし、話し合いがまとまらなければ、審判に移行するといった認識でよいと思われます。
Q1 遺言書が見つかりましたが、遺産分割協議をすることはできますか?
A1 遺言書が存在している場合でも、相続人全員で遺言書の内容とは異なる内容の遺産分割協議をすれば、遺産分割協議の方が優先されます。
ただし、遺言書の中で、遺言執行者が指定され、遺言執行者が就職している場合には、注意が必要です。遺言執行者の業務は、遺言の内容を執行することなので、相続人間で、遺言の内容と異なる内容で遺産分割協議をし、それを実現することは、「相続財産の処分その他遺言の執行を妨げることはできない」という民法1013条の規定に反するようにも、考えられます。
しかし、遺言執行者の同意を得ることで、相続人間で行った処分行為は有効とする判例がありますので、遺産分割協議の際に、遺言執行者に立ち会ってもらい、同意を得ておくことで、遺産分割協議を有効にすることができるものと考えられます。
Q2 遺産分割協議が調いましたが、もう一度遺産分割協議をやり直すことはできますか?
A2 相続人全員が合意すれば、遺産分割をやり直すことができます。ただし、税務上は、やむを得ない事情がある場合でなければ、やり直すことができず、2回目の遺産分割によって移転する財産があれば、譲渡所得税、贈与税の課税がされることがあります。
Q3 被相続人Aが亡くなり、遺産分割で母親Bの面倒を子C、DのうちDがみるとの協議が調いましたが、Dは、Bの面倒をみようとしません。この場合、一度成立した遺産分割を解除することはできますか?
A3 この場合、DがBの面倒をみないということになりますので、Dの債務不履行となります。しかし、一部の相続人の債務不履行による、遺産分割協議の解除は、遺産の分割を余儀なくされ、法的安定性が著しく害されるため、できないものとされています。
Q4 被相続人Aが亡くなり、相続が開始しました。相続人は、妻Bとその子C、Dですが、Dは、まだ高校生(18歳)です。B、C、Dで遺産分割協議をしたいのですが、できるでしょうか?
A4 Dが未成年者(民法上、20歳未満の者です)の場合には、Dのために特別代理人の選任を家庭裁判所に申し立てる必要があります。
未成年者は、自分1人で、法律行為(遺産分割協議もこれに含まれます)をするには、法定代理人(両親など)の同意を得ておくか、法定代理人が未成年者を代理して行う必要があります。
しかし、本件のような遺産分割協議では、Dとその母親であるBは、相続財産の取得については、互いの利益が相反しますので、上記の同意や代理は、意味を成しません。
したがって、未成年者Dを保護するために、Dのために、家庭裁判所に特別代理人の選任の申立てをしたうえ、そこで選任された特別代理人とBとCが遺産分割協議を行います。
特別代理人は、家庭裁判所が選ぶことになりますが、通常、未成年者との関係や利害関係の有無などを考慮して、適格性が判断されることになります。なお、申立ての段階で候補者を立てることもできます。
なお、Cも未成年者であった場合には、Cについても、特別代理人の申立てをしたうえ、Cの特別代理人、Dの特別代理人、Bで遺産分割協議を行います。
Q5 被相続人Aは生前、Xから200万円借金をしていました。Aの死亡後、B、C、D間で、Aの不動産などのすべての財産及びXからの借金のすべてをDが、相続するという遺産分割協議が調いました。しかし、XからCに対して、Cの法定相続分である4分の1にあたる50万円を支払ってほしいとの請求がきました。Cは、支払いに応じなければならいないでしょうか?
A5 被相続人Aは、Xから生前借金をしており、その借金も相続人が相続の放棄等をしない限り、相続されます。
B、C、D間で、Dが不動産などすべてのプラスの相続財産を取得し、また、借金などのマイナスの財産を取得するといった内容の遺産分割協議は有効ですが、借金などのマイナスの財産は、債権者が承諾しない限り、Dが単独で取得するととしても、他の相続人は法定相続分で支払義務は負います。
上記の事例で、借金について、遺産分割協議内容に、Xの承諾がない場合には、CはXからの請求に応じる必要があります。
ただし、遺産分割協議の内容に関しては有効ですので、CがXに50万円を支払った場合、CはDに求償することができます。
ヤナガワ司法書士事務所では、相続の手続(遺言書の確認・遺言書の検認・相続人の調査・相続放棄・単純承認・限定承認・遺産分割協議・相続登記)を中心に、債務整理や、労働問題などにも対応しております。
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